「TOSHI」としてスイスに生まれ ー 。 | Vol.37

 パリでの初めてのノエルの季節となった。ヨーロッパにきて4度目のノエルである。シャンゼリゼやマドレーヌ広場の美しさはさすが花の都「Paris」を感じさせる。美しさに目を奪われてパリ中を歩き周った。このころの「フォーション」や「ラデュレ」の装飾は今でも目に焼きついている。パリのクリスマスケーキは「ブッシュ・ド・ノエル」が主流。クラッシックなものはバタークリームにショコラやキャラメル、リキュール等を加え切り株風にデコレーションしたもので小型のブシェットと呼ばれるものも大人気だ。「Stohrer」のノエルデコレーションは数ある有名パティスリーの中でも私にとって最高であった。
豊かな表情のガレット
豊かな表情のガレット
店の前には濃紺に金色の星を散りばめたテントが出されブッシュの他に、定番ガトーもノエル用に飾られパリ一番の老舗は重厚に華麗にそして何より美味しそうにノエルを演出した。クリスマスイブ前日はさすがに忙しかったが日本のように日付が変わるまで働く事は無かった。ヨーロッパでは24日に忙しさのピークを向かえ25日は落ち着く。以前にも書いたがスタッフの半数はクリスマスに休み、クリスマスに働いた者は元旦に休める。大晦日はしゃぎたい私はいつも元旦に休んでいた。しかしこの「Stohrer」はクリスマスが終わってからの方が忙しい!。Stohrerはノエルよりも1月6日公現祭の「ガレット・デ・ロア」のほうが有名なのである。
 ノエルが終わると全員で一斉にガレットの製造に入る。単調な作業なのでシェフの号令のもと和気藹々としかも手際よく、クリームを搾る人、パイでふたをする人、クープを入れる人(ガレット特有の表面にナイフで切れ目をいれる事)など、流れ作業でこの菓子を作っていく。最近は嬉しい事に日本でも徐々にこの菓子が知られるようになってきた。パイの中にクレム・ダマンド(アーモンドクリーム)を絞り、そこにフェーブと呼ばれる(多くは陶器で作られた)店独自の人形を入れて焼く。この菓子の面白いところは皆で切り分け、この人形を引き当てた人が菓子につけて売られる王冠をかぶりその日の王様となる。
特大「ガレット・デ・ロア」
特大「ガレット・デ・ロア」
 この期間は職場でも昼食時には必ずガレットを食べ、皆で一喜一憂する。大の大人が子供に戻る微笑ましい一時であった。Stohrerのフェーブは金色の「空豆」の形をしていてとても人気があった。一部では純金であると言われていたが一台1000円程で売られるガレットにそれは無い(笑)。フェーブというのは本来「空豆」の意味で昔は本当に空豆を入れて焼いていた。この店では通常のガレットの他に、中にクリームの入っていないパイ生地だけのガレットもあり、中央に丸い穴が開けられ棒に通して売られていた。ガレットの元祖はこの形であったらしい。Stohrerでは様々な大きさのガレット・デ・ロアが約4000台、飛ぶように売れる。それは本当に羽が生えたかのようにガンガン売れた。
「ガレット・デ・ロア」が終わると次は「St-Valentin」と思うのは日本人の発想である。フランスではバレンタインは日本の様に一大イベントではない。大体がショコラを女性から男性にと言う習慣は、定かではないが日本のチョコレートメーカーの戦略だったというのが通説である。バレンタインはフランスでは男性から女性に花などを贈るのがポピュラーで、ちなみにホワイトデーはフランスには全く無い。その代わりに鈴蘭を送るFete du muguet(鈴蘭祭り)やパリ中がライブハウスと化すFete du musique(音楽祭り)など御機嫌な日が多くある。