ガトー・アニバーセールと名付けられた私のオリジナルのショコラケーキは特製の飴細工と共にBruneauの人気商品となった。「ガトー・アニバーセール」それは直訳すると「記念日のケーキ」という意味である。今では親父の名前をお借りして「ジャン・ピエール」と名前が変わりTOSHIのスペシャリテとなっている。
飴細工は湿気に極端に弱い。その為作り置きができないのでいつもサービスする直前に作っていたがショコラ細工は温度管理さえしっかりしておけば作り置き出来るのである。私にとってお客様に喜んで頂く事は最上の喜びであった。そんな私には絶対に守るべき大切な事があった。それは通常の仕事に負担をかけない事であった。再三書いたが、当時のDessert部門の責任者は変化を極端に嫌った。もし私の新しい試みが通常の仕事の妨げになるような事があれば即座に責められるであろう。何かアクションを起こせば必ずその反動はある。「プラスの動き」があればどこかに必ずその反動「マイナスの動き」も生じる。私側から見れば正しい事も見る角度によっては変わる。どこから見ても納得してもらえるだけの努力とそして結果が必要だ。私は通常の仕事を正確に迅速に行って時間を短縮して記念日の細工に挑戦した。デザートを出すわずかな隙を見つけて一気に作るのだ。この時、パリ時代のコンクールの経験が本当に役立った。
話は又戻る「お客様に対しても自分が正しい時には自己主張してもよいのではないか?」 帰国後悩んで出した結果はOui(Yes)である。ヨーロッパでは語学が不自由な為と所詮どこかの馬の骨である私の一つの主張も理解してもらうには長い時間と結果が必要であった。それに比べれば日本では理解して頂けるまで話せる語学力と少なくとも身元の知れた悪人では無いという信用があった。「ヨーロッパとの文化の違いはあるにせよ真心を込めて説明すれば人は必ず理解してくれる。勘違いされる事は自分の誠意が足りないだけだ。」それに気付いた時、今までのわだかまりが一気に消えた。全てのお客様に対して人として真摯な態度で臨もうと。「お客様は神様ではありません愛すべき人です!。」 |