ベルギーに戻りまず手をつけたのが寝床の確保である。労働ビザを所得して長期滞在となれば若い料理人4人との共同生活は卒業したかった。知人の紹介で店から徒歩15分位の住居の2階に決めた。天井が高く大きなベランダもある1LDKは自分で借りた住居では欧州生活最高の快適さであった。唯一の気がかりはトルコ人街にあることであったがそれも快適であった。
ベルギーでの自宅 |
ベルギーには通常、日本の様な24時間営業の店は無いが近所には24時間営業のエピスリーがあった。エピスリーと言うのは直訳すれば香辛料屋という意味であったが小ぶりなコンビニといった感じで帰宅の遅いレストラン勤めには便利であった。そしてベルギー生活で一番よく食べた美味しいドルムがあった。ピタはベルギーの名物の一つになるほど有名であるがドルムはベルギーのピタ屋には必ずある人気商品である。ピタパン(薄くやいたナンの様なもの)に玉ねぎやレタス、ニンジン等をのせ羊肉を薄切りにして焼いたものをたっぷりとのせる。さらにフライドポテトをのせ最後にピカントと言うちょっと辛いソースをかけグルグルと巻いていく。これをアルミ箔に巻いて手渡してくれるのをがぶりとやる。これが最高に旨い!。ベルギーの若者達にとってはさしずめラーメンといったところだ。ランチでもよく食べるし、飲んだ後にも定番だ。もともとはギリシャ料理のようだがトルコに伝わりヨーロッパ中に広がった。グラン・プラスの近くにもたくさんのピタ屋があるがこのトルコ人街の中にあるピタ屋のドルムが最高であった。ご機嫌なトルコ人街はサッカーのヨーロッパカップの時など、ベルギーが勝っても静まりかえっているのにトルコが勝つとお祭り騒ぎとなり「自分はいったい何処の国に住んでいるのか?」と解らなくなった。
休みの日の定番は朝から得意のスパゲッティ・ペパロンチーニを作り、白ワインと共に楽しむ事だ。私のペパロンチーニはまず上質のバージンオリーブオイルにニンニクをたっぷりと入れ香ばしく炒めて次に唐辛子を加えこれも炒める。次にアルデンテにゆがいたパスタを加え塩胡椒。そしてお気に入りのオリーブをたっぷり加える。最後がポイント、庭で育てているバジルを振りかける。その他のおはこはスパゲッティ・ペースト(バジルのペースト)にスパゲッティ・ウフ・ド・ランプ(ランプの卵)。日本人が来たときはウフ・ド・ランプが特にうけた。ランプという魚はチョウザメの親戚である。その卵は親戚なので見た目はキャビアに似ているが値段は雲泥の差なのでたっぷり使う。料理人には直ぐばれるが素人には「キャビアのスパゲティ!」と騙して好評を博していた(もちろん最後には暴露しました)。
渓流 |
ゆっくりと朝食を採った後はデ・ブルッケの映画館へ。フランス語の勉強も兼ねているので何処の国の映画もフランス語吹き替え版で観た。その後、趣味と勉強を兼ねた菓子屋周りをして、最後に郊外の大きなショッピングセンターへバスで行き一週間ぶんの食糧を買い込む。自宅に戻り生牡蠣やムール貝を白ワインかKWAK(ベルギービール)で堪能した後は肉料理。鶏を丸ごとローストしたものを買ってきてもう一度パリッと焼き直したり、子羊に塩を塗して丁子を差し込みローリエなどとオーブンでじっくりと焼き込んだり。これらと赤ワインがあれば休日の締め括りは最高だ。この頃、友人は料理人が多かったので貧乏であったがなんとも優雅な食生活であった。
一番よく食べたのはドルムだと書いたが二番目は何といってもワッフルであるベルギーワッフルにはサクッとしたリエージュとフワッとしたブリュセルがあり、焼きたてのリエージュがお気に入りであった。時にはたっぷりのショコラや生クリームをトッピングして口の周りがベトベトになりながらも子供の様に無心で頬張った。
|