ショコラ製造の道筋01

シェフズ ストーリー>エクアドルの夢

Dream of Ecuador

〜エクアドルの夢〜

初収穫編

004/006

初日の出

ショコラ製造の道筋01
帰国した私を待っていたのはクリスマスの忙殺的な忙しさであった。ショコラの事が気になりつつもクリスマスに向け全神経を集中させるより仕方がなかった。そしてクリスマスが終わりまだまだ年末の帰省土産ラッシュの忙しさを残す中で最終的なショコラ受け入れ体制のチェックを始めた。
 
カカオ豆の到着が1月8日に決まった。本来なら年末に入る予定だったが検査が長引き新年にずれ込んだしまった。本来なら1月6日からの一夜城Yoroizuka Farmの5日間の冬休みの間に全ての工事とカカオ豆からのショコラ製造に道筋をつけておきたかったが、少しの遅れが生じてしまった。そして加工機械の搬入も同じ8日に決まった。そんな中、大きな問題が浮き彫りとなり愕然とした。
 
一夜城の厨房にショコラの加工機械を入れる為に必要な電気工事の最終発注がまだなされていないというのだ。通常なら私が全て取り仕切るのだがあまりの忙しさに電気工事の手配は全て一夜城スタッフに任せていた。私としては発注も・・・。しかしスタッフはそれに対する準備は万全に行っていたのだが、最終的な業者への発注は私自信がするものだと考えていたのだ。年の瀬も押し迫り業者の予定が詰まっており、どうしても電気工事が間に合わなくなってしまった。
 
もう一つ問題点が。イタリアから輸入したボールミル(コンチングマシーン)のコンプレッサーの音があまりに大きすぎて狭い私達の加工所では精神的に長く作業できない事が判明し、別のコンプレッサーに急遽変更する事になったのだ。納期は一週間は遅れそうだ。そこでまた問題が発覚。前の物と電気容量が違うのである。
予定している厨房にあうコンセントが無い。様々な角度から検討してみたが結局は業者に頼んで長い延長コードを作ってもらい臨時的に菓子工房から引っ張る事にした。通常だと仕事に支障がでるが、とにかく店が冬休みの間はなんとかなりそうだ。この期間、私はスケジュールを完全に空けてこれに賭けるつもりだ。
 
様々な問題点が浮き彫りとなりまたそれに対する対処に翻弄する中、年は明けた。
 
一夜城から見る初日の出は今年で三回目であった。初日の出予定の1時間前に一夜城に到着すると50台以上は止められる駐車場は既に車で溢れていた。この年一夜城から見る初日の出は今までで一番美しいものであった。
 
 
そしてまちにまった8日。まずは機械の搬入から始まった。何度も足立区の工場で試作を重ねたマシーンである。そして約束の13時丁度にエクアドルからカカオ豆は到着した。
 
大型トレーラーにちょこんと入れられた560kgのカカオ豆は滑稽でさえあった。
 
空けたとたんにフローラルであり尚且つ発酵臭を強く残した酸味のある香りが部屋に充満する。そして豆は。今までで見たどの豆より大きく美しい。「これはいける!」と確信した。

最高のカカオ豆

まずはオーブンで軽くロースト。今まで近隣の畑のカカオで試作は何度も試してきてローストは最低限に抑える事に決めている。そしてその後、粉砕機で粉砕して振るいに掛ける

粉砕

その後、お米の唐箕の機械を改造した機械にかけて殻と胚乳の部分に分ける。風をあてて軽い殻を遠くに吹き飛ばし、重い胚乳(この部分がカカオニブとなる)の部分を手前に落とし選別するのであるがこれが非常に難しい。
 
まず粉砕する大きさが難しい。大き過ぎると殻までも重くニブに混ざって完成品の純度が薄れてしまう。逆に細か過ぎるとニブが軽すぎて飛ばされて殻に混ざって塵になってしまう。目標は殻の混ざり込み2%以内。そしてカカオから獲れるニブの歩留まり70%。唐箕の機械に入れる速さも影響すれば三か所にある弁の具合一つでも大きく変わってしまう。

選別

いくらやっても丁度良い具合には中々いかない。ここで止める訳にはいかない。手伝いに来て下さった若旅さんにここは任せて、私は一番のポイント、焙煎に入る事にした。
 
何度も足立区の工場にてサンプルで試しているが本物とは全く違う事に直ぐに気が付いた。サンプルで使っていた豆よりも遥かに質が良い。温度と時間を微妙に変えながら何十種類もサンプルを作っていき味を確認する。最終的にこのローストしたカカオニブをコンチングマシーン(精錬)にかけて練り込みショコラを完成させていくのであるが、最終的な味を創造してニブのロースト具合を決めるしかない。何十種類も食べていると何が何だか分からなくなる。水を飲み気分を一新しテイスティングを繰り返していく中、時間がどんどん過ぎていく。
 
悪戦苦闘していた若旅さんが「遂に出来ましたよ。」と振るわれたカカオニブを持ってきた。確かに殻の混ざり込みは少ない。しかしここで満足してはいけない。吹き飛ばされ塵の中の殻を詳しく見る。こちらにもニブはほとんど見当たらない。完成である。
 
もうこの時点で東京に戻る電車は無くなっていた。車で送ると言う私に「それよりも良いショコラを完成させて下さい」と一夜城を若旅さんはタクシーで去っていった。
 
これが最後と決めた。もう一度ローストをやり直す。製法は三種類に絞っていた。焼きたてを食べても意味がない。とにかくこの日は眠る事にした。

乾燥

ソファーで日の出前に目覚めた私は直ぐ工房に向かいニブを慎重に食べ比べた。ピンときた。やはり前日に一番気になっていたロースト具合だ。
「よしこれで行く!」決めた。

Sponsor