ウィーンの冬の楽しみ
023/071
ウィーンの冬の楽しみ
冬のウィーンの楽しみは何といってもオペラ。休日になると頻繁にオペラ座に通った。もともと「クラシック音楽が大好き!」と言う訳ではない。むしろ「よく分からない派」であった。しかし一流のアーティストの技と芸、そして気迫に感動した。同じ空気のもとに同じ志を共有できる事に喜びを感じた。もちろん舞台の上にいるのはスターでこちらはまだまだパティシエの卵(ヒヨッコ位かな)だが志では負けてはいないつもりでいた。
ある日シュナイダー夫妻が休みの度にオペラ座に行く私をみて、地元のオペラ座のチケットをプレゼントして下さった。チケットを良く見ると中央の最前列の席である。安い立ち見席でいつも見ていた私にはまさに夢のような席である。しかも注目の新人プリマドンナの初日である。絶対に一般人には入手出来ない様な席を用意して下さった。
大成功に終わった舞台は幾度ものカーテンコールの後、静かに幕が下り、出演者は全員が舞台の中央に駆け寄り、抱き合い歓喜に包まれた。幕一枚隔てた私も、その和に包まれたように嬉しくて涙した。いつかは自分もパティシエという舞台で活躍できる日を夢見て。
この頃の楽しみの二つ目は映画である。元々、映画が大好きであったがスイス時代はドイツが分からないので敬遠していた。久しぶりに見た映画は言葉の壁など全くなく私を夢中にさせた。ドイツ語が理解出来るようになった訳ではない。言葉が半分も理解出来なくとも分からないところを想像力で補って楽しめるのである。暫く銀幕で見ることのなかった大好きなジョン・トラボルタが復活して少し太めになった体での踊りは懐かしかった。
三つ目の楽しみは温泉!そもそも私の住んでいるこの「Baden bei Wien」のバーデンとは温泉と言う意味である。町の中心部に温泉があり、昔、王侯、貴族、芸術家達が集まる高級温泉保養地として栄えた町である。かつては何箇所もあった温泉も今では、店から徒歩3分のところにある一件のみであった。(私のいた当時の温泉は取り壊され現在は近代的な複合施設となっている)雪の中、露天風呂で体を伸ばすと、冷え切った体の隅々まで暖かい血液が染み渡り、また菓子作りに対する活力が漲った。
オーストリアでの生活にも馴染んで来たころ、シュナイーダー夫妻が使っていない家を綺麗にリフォームし提供してくれた。Badenから自転車で20分程の所でド田舎だったがワイン畑に囲まれた農村の中にあるのが何よりの魅力だった。
季節が移り変り、私はWIEN一番の愉しみを発見した。それはHeurige(ホイリゲ)!。
ワイン農家が期間限定で庭にテーブルを並べてその年に収穫したワインを飲ませてくれるのだ。家々によって自家製の料理も食べさせてくれる。私が住む事になったこの村はこのホイリゲの村なのである。Wien北部郊外にあるGrinzingが有名だがかなり観光地化されてしまっている。そこへいくと私達の村は観光客は全く来ず、静かで素朴で料理が旨くて、何よりもワインが最高な御機嫌なホイリゲである。毎日仕事が終わると農家の庭でワインを傾けた。時折、アコーディオンやバイオリン奏者がきて軽快なメロディを奏でてくれる。オーストリア、特にこの辺りでは白ワインが美味かった。少し南にいくと「Neusiedler See」と言う湖がありここで取れる貴腐ワインは世界一美味い!後の話になるが2006年、この世界一の貴腐ワインを使ったデザート「インパクト」がTOSHIの大人気商品となった。'07ミッドタウン店ではこのワインが大活躍する事だろう。

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