ウィーンの夏
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ウィーンの夏
Bad Ischl(バードイシュル)のBadとはBaden(バーデン)と同じ語源から来ていて温泉地として有名な町である。皇帝の別荘があり、皇帝の避暑地や湯治地には必ず音楽や菓子といった文化が華開く。この街の皇室御用達の菓子店が「Zauner」である。常時、生菓子だけでも200種類はあると聞いていたが、噂に違わず凄い品揃えである。焼菓子も合わせればいったい何種類あることか!ケーキはムースではなくバタークリーム、生クリーム主体で、皆美味しそうないい顔をしている。二日間の滞在中この店のケーキを食べまくった。
夏のBadenも最高に御機嫌である。広場には花々が咲き乱れ、市場には花々に負けないくらい華やかでみずみずしい新鮮な果物が並び、ベートーベンの散歩道と呼ばれる小路は緑で覆われる。そんな中、レストランのテラスでワインをかたむけながら愉しむウィーン料理は格別であった。ウィーン料理で一番有名なのはウィーナー・シュニッツェルだ。仔牛肉のカツレツで皿からはみ出る位大きいのが特徴だ。その他にもノッケルンやシュペッツレといった独特の小麦粉団子のような料理も大好物だった。

アンナミューレの新年を祝うケーキ

夏の恒例の仕事にシュナイダー氏の別荘の庭にあるクエッチ(プラムの一種)採りがあった。木々には数え切れないほどクエッチが実り、梯子をかけて皆でとるのだが丸一日かかっても取りきれないくらい収穫できた。翌日から暫くの間、店頭のケーキはクエッチだらけ!なんとものどかで、しかしこれが菓子店の原点のような気がして心和んだ。
夏といえば旅!相変わらず旅好きの僕は暇を見ては旅にでた。以前に紹介した、東欧のハンガリーやチェコ、ソロバキア。そしてチロルの小さな村や南ドイツそしてイタリア等等。南ドイツはロマンチック街道が有名だが、観光地化されていない小さな街も本来の可愛さやぬくもりが残っていてよい。とはいえ麓の村から見るライトアップされたノインシュバインシュタイン城は最高だし、ロマンチック街道の街々はお伽の世界から抜け出してきたようでメルヘンチックだ。イタリアは、7年程前にリュックを背負ってぶらぶらと一人旅をしたので、ローマやヴェニスは再訪問であった。初めての時のような新鮮さはないが、二度目は又違った発見があり感動した。

サプライズパーティーの仲間達

夏が過ぎ、ワインの収穫も貴腐ワインのみを残して終わった頃、友人にホイリゲに誘われた。何気なく二つ返事で承諾して行って見ると、店のスタッフ全員が集まっているではないか。「まずいところに来た。」たまたま呼ばれてもいない仲間の飲み会にかち合ってしまった。引き返そうと思ったが何人かと目があってしまったのでそれも不自然である。バツが悪いがしぶしぶ皆のテーブルに近付いていくと「誕生日おめでとう!」と口々に皆が花束を渡してくれる。「え~!まさか!!」本当に驚いた。僕の誕生日だったのである。日本だったら少しは予期したかもしれないが今回は全くのサプライズ。こんなに驚いたのも、こんなに花束をもらったのも、そしてこんなに嬉しかったのも初めてであった。さすがに涙を零すのは我慢したが、心の中では感謝と感激に涙があふれた。「なんて心温かい人達なんだろう。」この日、酒には結構強い僕だがへべれけになるまで飲んだ。
二年目のノエルと新年も楽しくそして有意義に過ごした頃、またもや自分の中に沸々と熱く滾る想いが込み上げてきた。「フランスへ行きたい!」

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