Jean luc pele
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Jean luc pele
寝ても覚めてもフランス語漬けの二ヶ月が終盤に差し掛かった頃、ベルギーから日本経由で一枚のFAXが来た。英語で書かれたそのFAXには来月から約束通り働いてもよいという旨が書いてあった。給料は日本円で10万円位であったと記憶している。決して良くはないが最初にしては悪くはない。いよいよベルギーかと思い紹介してくださった日本のチョコレート会社の社長に電話をいれたところ彼は内容に憤慨しているようだった。今までに比べて給料は安いが今までが恵まれ過ぎていたのだ。実力が未知数の外国人なのだからこの金額で憤慨するのは筋違いであろう。ところが、なんと10万円位という金額は貰えるのではなく支払えと書いてあったのである!しっかりと読んでいなかった私はびっくり仰天である。英語が堪能な友人に頼んで訳してもらうとやはり「支払え!」と書いてある。働かしてあげるからお金を毎月支払いなさいという事である。これには珍しくぶち切れた。こうなると私は行動が早い!直ぐにベルギーに乗り込むべく準備を始めた。

ジヴェルニー-モネの庭

翌日の朝一番で行くことに決めたが夜になって少し気が変わった。どうせなら駄目もとでお気に入りの2店だけに働けないか当たってみよう。その後ベルギーに乗り込んでも遅くはない。予定を変更して朝一でヴェルサイユの「Jean luc pele(Vol.29参照)」に行った。働かして欲しい旨を販売の方に伝えると直ぐに裏から一人のパティシェが出てきた。年齢にして26,7だろうか。オリビエと名乗ったそのパティシエはいかにも仕事が出来そうなオーラをだしている。働きたい旨を伝えると明日の5時に来いという。何度も確認したが夕方ではなく朝である。「そんな時間に面接なの?」とにかく約束を取り付けてパリに出た。もう一件はパリ2区にある「Stohrer」である。この2ヶ月間、フランス語の勉強と菓子の食べ歩きに費やした。そして二大お気に入りがヴェルサイユのJean luc peleとパリのStohrerだった。はじめて食べたStohrerのババとヌメアに衝撃を受けそれからこの店の大ファンとなった。(ちなみにババは【ババ・オ・フィグ】としてヌメアは【トロピコ】として更に自分なりに完成度を高め現在のToshi Yoroizukaの人気商品となっている)。Stohrerでも働きたいと伝えるとシェフが直接でてきた。彼は言った。「明日の6時に店に来い。話はそれからだ」と。「それはまずい!」翌日はオリビエとのランデブーがある。結局、明後日6時という事で話をつけた。2件共「とにかく店に来い。」としか言わない。その時間に行けばパトロンと会えるに違いない。

stohrerのアントルメ

翌朝、Jean luc peleに行くとオリビエが出てきていきなり「Tシャツの上にこれを着て直ぐ働いてくれ」とタブリエを手渡し言った。「えー!どういう事なの?もう働かせてもらえるの、君がシェフなのか?」いろいろ質問してみたが「とにかく今日一日働いてから話をしよう。」の一点張りである。まずはオペラにグラサージュを掛けカットして仕上げる仕事だ。グラサージュ掛けというのはその温度や濃度によって仕上がりは大きく変化するし、なによりもやり直しが効かない。混ぜすぎると気泡が入って駄目になる。ゆっくりと混ぜ状態を確かめる。とても艶がありサラサラしている。カカオバターだけではなく植物性の油脂が入っていそうだ。きっと温度は低めにかけたほうが良い。土台は表面がガナッシュで上手く真平らになっている。おそらく上に重しを乗せてあったのだろう。ポイントは一回で薄く均等に掛けることである。こういうときはかえって慎重にやるより自信を持って大胆にやるに限る。少しの迷いがムラになる。ざっと思い切って掛けるとスパテラを大きく動かして全体を覆い最後にカット用に置いてあった60cm物差しで一気に奥から手前に動かし余分なグラサージュを切った。自分で言うのもなんだが最初にしてはバッチリ上手くいった。後ろで見ていたオリビエも黙って微笑んだ。

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