語学学校
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語学学校
憧れの地、パリでの学生生活は快適だった。朝、いつもテーブルには数種類のフロマージュとフルーツが用意されており、バゲットとカフェ・オ・レの朝食はパリの一日の始まりには最適だった。駅まで40分の道のりも、フランス語のテープを聴きながら散歩気分で苦にはならない。

ラ・ロシェル-夕焼け

語学学校は月曜日から金曜日まで毎日夕方まであり、その後も学校の図書館やポンピドーセンターの図書館で夕食の時間まで勉強した。夜は皆でワイワイとワインを飲みながら食事をするのだがこれが何よりの生きたフランス語の授業だ。学生生活に慣れてくると友人も出来て判った事だが、本当にホームステイ先に恵まれたようだった。ワインが飲み放題で朝食、夕食が美味しく、とても親切という家庭は私だけだった。その原因は友人達は皆パリでホームステイをしており、ヴェルサイユは私だけ。毎月、下宿生は学校にアンケートを提出させられ、その評価の高い順から人を紹介するシステムになっている。ヴェルサイユにあってそれも駅からかなり離れている私のホームステイ先は不人気な分、親切で待遇が良いのではという事に話は落ち着いたが、いやいやマダムの人柄が良いからに違いない。一家でラ・ロシェルに旅行に行く際にも連れて行ってくれた。それも費用はマダム持ちである。
ラ・ロシェルではのんびりと絵を描いて過ごした。フランスに来てから暇があると絵を描くのが趣味となった。絵といっても本当に簡単なもので、いつもリュックにスケッチブックとクレヨンを入れて持ち歩き、描きたくなったらその辺りに座り込んで描きはじめる。一枚精々、1時間位だろうか。決して絵画ではなく自分では日記のようなつもりで描いていた。もう一つフランスに来てから始めた趣味がある。それは童話を書く事。これは少しずつ書き綴るのではなく、書きたくなったら一気に書く。昼間から書き始めて、食事も休憩もとらず深夜までかかる事もあった。気分転換のように楽に描く絵と違い童話は一作書くと、どっと疲れ、数ヶ月間書く事は無かった。暫くして書きたくなると又一気に書くといった具合だ。主人公は熊であったり犬であったり河童というのもある。絵も童話も照れくさいので今まであまり人に見せた事はないが、絵は褒めて頂く事もたまにあるので少しこの連載の中に載せる事にした。

サクレ・クーレ聖堂-早朝

フランスに来て2ヶ月目からアリアランス・フランセイズは午前中の授業だけにして、午後からは最高6人迄の小クラス制の学校に移った。最初、電話で入学の趣旨を伝え早速口頭で簡単な実力試験を受け、指定された時間に行くとなんと中級者コースに編入することになった。まだ本格的にフランス語を始めて一ヶ月なので無理だといったが、先生から太鼓判を押され入学した。この後、語学に専念した1ヶ月間、皆に上達が早いだの才能があるだのと褒め称えて頂いた。そう私が今までの人生の中で唯一、「語学の才能がある」と言われた時期である。フランスに入って2ヶ月目、私のフランス語力はピークを迎える。この後、4年半一気に下降線を辿っていく。こう書くと読者は私が謙虚な人間だと捉えるだろう。しかし事実なのである。過去形、未来形は忘れ去り、動詞の活用形もあやふやになっていき、ただ勢いのみで怪しげなフランス語を話すようになっていく。これが何とか通じるようになってくるともう文法の勉強などしなくなり周りのフランス人のほうが私の怪しげなフランス語に慣れてくる。 Mon dieu!(なんてこった!)

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