最後の晩餐2
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最後の晩餐2
定番のアミューズ2皿の後、いよいよ私が考えに考えて選んだ料理が運ばれてきた。前菜に「Carpaccio Coquille Saint-Jaques(帆立貝のカルパッチョ トリュフ添え)」。私はBruneauに来てからトリュフやフォアグラが大好きになった。新鮮な帆立貝の味わいとたっぷりと振り掛けられたトリュフとトリュフオイルの風味が混ざりあい絶妙である。

日の出3部作-夜明け

ワインは一皿ごとにソムリエが選んだ逸品を注いでくれる。前菜二品目に「Viennoise de Turbot(平目のヴェノワーズ風)」サクッと表面をポワレした平目と適度にマスタードの効いたまったりとしたソースがとても良くあう。魚に「Bar Caviar(鱸とキャビア)」。Bruneauのスペシャリテだ。焼いた鱸の上にタップリとキャビアが乗せてある。その鱸が薄くポテトとトリュフを引きつめた上に厳かにおかれている。なんとゴージャスな料理なのであろう。キャビアは添えられているのでは無い。「鱸ではなく俺が主役だ!」とキャビアが叫んでいるかのようだ。最高級ならではのプチプチとした食感が噛みしめる度に口に中に広がる。そして肉料理「Filet de boeuf a la Rossini(牛フィレロッシーニ風)」。本来はBar CavierやRossiniはアラカルトのみであるがこの日は特別に少し小ぶりにしてコースで出してくれた。Ris de Veau(子牛の胸腺)やPigeon(鳩)も大好きであるがつまみ食いした事があった。Bar CaviarとRossiniはソースを舐めた事しかない。私にはソースだけでもパンとワインがあれば立派なディナーになる代物だ。皿の中央にまるで聳え立つが如く分厚いフィレは圧巻である。その上にフォワグラとトリュフを載せ、ダイナミックにソースが掛けられている。繊細に構築されながらも豪快な親父のスタイルが私は大好きであった。中から肉汁が溢れ出るレアな牛フィレ、その上のまったりとした濃厚なフォアグラ、そして芳醇にたちこめるトリュフの香り、全てに絡みつくマディラを効かせた少し甘いソース。まさしく想像を超えた一皿であった。肉料理の後もゆったりとした時間が続く。既にシャンパンと4種類の料理とベストマリアージュしたワインを堪能していたが、フロマージュそしてデザートと共にワインを楽しむ時間こそ優雅な一時である。フロマージュはメイトルのサルバトーレとゆっくり会話を楽しみながらワインと共に頂いた。

日の出3部作-朝日

デザートはスウェーデン国王晩餐会の時の思い出のDessert「パンペルデユー」。これはオープン時からのスペシャリテである。私が手取り足取り教えたオリビエの作は中々の出来栄えである。厨房横の丸窓から眺めている彼に笑顔でOKを出した。食事が終わりCafe´が出るころにようやく親父が登場した。どんなに素晴らしい料理だったかを表現する言葉が私のフランス語のボキャブラリーの範疇からは見つけられない。結局、精一杯の笑顔で親父の手を力一杯握るしかなかった。親父もやはり力一杯握り返してきた。いざ会計をと思うと親父が微笑みながら首を横に振った。Bruneauでは滅多に無い事で、私は心の底から感謝した。料理の数々そしてワインにデザート、夢の様な夜であった。親父が今までに見たことが無いような笑顔で店から送りだしてくれた時、自分にとって大きな一つの時代が終わった気がした。最高の夜と共に。
いつも「やり残した事は無いか?」と自問自答してきた数か月であったが、遂に最後の夜が過ぎた。いつかこの地に戻る事はあるであろうがそこには新たな私がいてこのヨーロッパを別の観点から眺めている事であろう。しかし最後に私には最も大切な仕事が残っていた。荷物を日本に送った後、リュック一つ背負って7年半をさかのぼる旅にでた。ブリュセル、パリ、ウィーン、スイスとその旅は今までお世話になった人々を訪ね一言感謝の意を伝える旅である。

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