TOSHIとしてスイスに生まれ
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スウェーデン国王歓迎晩餐会1
事実上すでにChef Patissierであったが、労働ビザを所得した事によって改めて周りから認めてもらえるようになった。地方の一つ星に行った時の事、オーナーシェフから「Bruneauの日本人Chefは君か?噂は良く聞いているよ。」等と言って頂いた事があり、甚だ以て恐縮であるが正直嬉しかった。一つの目標は達成したがそれはあくまで通過点であり、いや通過点と言うよりもスタート地点であるつもりで日々の仕事に臨んだ。
ビスキュイクーラントショコラ
ある日Chefに呼ばれスウェーデン国王歓迎晩餐会のデザートを担当する事になった。それは国王御夫妻、皇太子御夫妻を招いての国をあげてのイベントである。その話は当然、総料理長として親父に依頼がきてその流れでDessertは私が担当する事になった。メニューは親父のスペシャリテであった「パンペルデュ・グラスシコン添え」である。このDessertはクラッシックであるがベルギー伝統デザートであり王室公式の催しではこのようなDessertが好まれた。私が親父を尊敬する理由の一つにお客様によって料理を変えない事であった。普段からベストを尽くしていればVIPが来たところで手の加えようが無いということだ。それまでにも国賓級のお客様はしばしば店に来られたが特別料理が出される事は無かったし、国王や皇太子からの予約が入っても先約があれば普通のお客様同様お断りしていた。個室が既に予約済みでプライベートでいらっしゃった国王や皇太子が一般席で他のお客様と一緒に食事を摂る事も珍しくは無かった。
通常公式晩餐会はシャトー・ラーケンと言う迎賓館で行われる。今までにも何度が王室行事でデザートを作りに訪問していたがこの日のセキュリティーは普段以上に厳しい。物々しい警備の中、厨房に入る。常に警備員は監視しているが私達の振る舞いを制限する事は無い。お客様が入る前に会場の下見に出かけた。と言ってもサービスはプロフェショナルがやるので本来は必要なくほとんどが好奇心である。我々が会場に入ろうとすると警備員はサッと道を開けた。
通常公式晩餐会はシャトー・ラーケンと言う迎賓館で行われる。今までにも何度が王室行事でデザートを作りに訪問していたがこの日のセキュリティーは普段以上に厳しい。物々しい警備の中、厨房に入る。常に警備員は監視しているが私達の振る舞いを制限する事は無い。お客様が入る前に会場の下見に出かけた。と言ってもサービスはプロフェショナルがやるので本来は必要なくほとんどが好奇心である。我々が会場に入ろうとすると警備員はサッと道を開けた。
スウェーデン国王歓迎晩餐会メニュー
会場のセッティングは昔、何かの映画で観たものにそっくりである。いやそっくりというよりもこちらの方が何から何まで本物なのである。ゆっくりと歩き王様の席に近づき後ろに立った。両国王の席が隣同志でその横に女王陛下、そして皇太子御夫妻と続いている。国王の席に座ろうかと悪戯心が湧いたがもちろん思い留まった。その間中、警備員は直立不動のまま監視していた。依頼したからには絶対の信頼をよせるべきと考えているのであろう。いよいよ開場となり、入口で国王を初め王室の方々がお客様のお出迎えをはじめられた。デザートの準備が一段落ついた私はガラス一枚隔てた王室の方々の直ぐ後ろでその様子を見守った。ジョン・フランソワが隣に来て私にお客様の一人一人を説明してくれた。各大臣や伯爵、経済界の重鎮等々。そうそうたるメンバーらしいが私は皇太子妃マチルドしか判らない。皇太子御夫妻がBruneauに来店される際はいつも「プリンセス・マチルドが来る!」と皆喜んでいた。「誰と来るの?」と私が聞くと答えは「たぶんプリンスじゃあないか?。」プリンス・フィリップには申し訳ないが皇太子妃の方が人気があるのは万国共通の宿命らしい。お客様の入場が終わると私はもう一度気持ちを引き締め直して厨房に戻った。いよいよ料理が始まった。普段、店で私が料理を手伝う事はないがこの日は盛り付けを手伝った。この時、気がついたのだがサービスマンが尋常ではない。皆半端なく姿勢が正しく動きがキビキビとしており、がっちりとした体格と面構えが普通では無いのである。顔に大きな傷を持つ厳つい人も数人おり全員胸に多くの勲章を付けている。一流のサービスなのだがいつも見ているサービスとは一味違う。後でジョン・フランソワが教えてくれたのだが全員「歴戦の勇士」退役軍人なのであった。